整理整頓が困難になり、部屋が汚部屋化してしまう背景には、脳の「実行機能」という高度な精神状態の働きが深く関与していると言うことができます。実行機能とは、前頭葉が司る能力で、目標を達成するために行動を計画し、順序立てて実行し、不要な刺激を抑制する機能を指します。精神的なストレスや疲労、あるいは発達障害やうつ病などの影響により、この機能が低下すると、私たちは情報の取捨選択ができなくなります。汚部屋に住む人の脳内では、目の前のゴミを「捨てるべきもの」として認識するプロセスが遮断されていたり、捨てるという動作に伴うエネルギーコストが、得られる報酬を大きく上回って感じられたりする状態にあります。特に、ADHD(注意欠如多動症)などの特性を持つ場合、不注意や衝動性によって物の定位置を管理できず、気づかないうちに物が蓄積してしまいます。これに精神的な不安定さが加わると、片付けられない自分への自己嫌悪がドーパミンの分泌を抑制し、ますます意欲が低下するという悪循環に陥ります。また、ホーディング(溜め込み症)と呼ばれる精神状態では、物に異常なほどの感情的な執着を抱き、それを失うことに激しい苦痛を感じるようになります。これは、脳内の感情処理回路の特異な働きによるもので、本人の意志の強さだけで解決できる問題ではありません。このように、汚部屋は決して性格の問題ではなく、脳の機能不全や精神医学的な要因が複雑に絡み合った結果として現れる「症状」なのです。したがって、改善に向けたアプローチも、根性論や叱責ではなく、脳への負担を減らすための環境調整や、認知行動療法、必要に応じた薬物療法などが有効となります。部屋を整えるという作業は、脳の混乱を整理し、認知機能を再構築するトレーニングでもあります。自分自身の脳の特性を理解し、無理のないステップで環境を整えていくことが、精神的な健康を取り戻すための科学的な近道となります。
脳の機能から読み解く汚部屋化のメカニズムと精神的要因