ゴミ屋敷を訴える際、身体的な被害や精神的な苦痛と並んで、近年注目されているのが「不動産価値の下落」を理由とした損害賠償請求です。自分の住まいがゴミ屋敷の隣にあるという事実は、その物件を売却しようとしたり、賃貸に出そうとしたりする際に、致命的なマイナス要因となります。これを「心理的瑕疵」あるいは「環境的瑕疵」と呼びます。例えば、本来であれば三千万円で売却できるはずの住宅が、隣がゴミ屋敷であるために買い手がつかず、最終的に二千万円まで値下げしなければならなかった場合、その差額の一千万円を損害として訴えることができるのではないかという議論です。法的には、この経済的損失を証明することは可能ですが、そのためには不動産鑑定士による鑑定評価が必要になります。鑑定士は、周辺の相場価格と、ゴミ屋敷の存在による減価率を計算し、具体的な損害額を算出します。裁判所がこの損害を認めるためには、隣のゴミ屋敷の状態が極めて深刻であり、一般的な購買心理からして明らかに敬遠されるべき状態であることが前提となります。実際に、ゴミ屋敷が原因で物件の価値が下がったとして、数百万円の賠償を命じた判例も存在します。しかし、現実はそう簡単ではありません。たとえ賠償を命じる判決が出たとしても、被告であるゴミ屋敷の主がその金額を支払う資力を持っていることは稀であり、結局は「紙の上の勝利」に終わるリスクが高いのです。また、不動産の価値下落を立証するための鑑定費用自体が数十万円かかることもあり、費用対効果の面で慎重な判断が求められます。しかし、経済的な損害を主張することは、裁判において「単なる感情論ではなく、実害が発生している」という事実を強く印象づける効果があります。また、この請求をきっかけに、被告の親族や相続人が将来の相続放棄や責任追及を恐れ、事態の解決に向けて動き出すという副次的な効果も期待できます。訴える側としては、健康や精神といった目に見えにくい損害だけでなく、家という最大の資産価値が損なわれているという「お金」の視点を加えることで、法的な戦いをより多角的かつ強力なものにすることができるのです。ゴミ屋敷の隣で暮らすということは、毎日自分の貯金が削られていくのを眺めているようなもの。その不条理を司法の場で問うことは、財産を守るための正当な防衛権の行使と言えるでしょう。
不動産価値の下落を理由とした損害賠償請求の可能性