ゴミ屋敷の住人を訴えようと考えた時、私たちの前に立ちはだかるのは法律の壁だけではなく、極めて現実的な「お金」の問題です。民事訴訟を起こすためには、まず弁護士への着手金が必要であり、事件の複雑さや解決までの期間によっては、これだけで数十万円、あるいは百万円以上の費用がかかることも珍しくありません。ゴミ屋敷の住人の多くは経済的に困窮しているか、あるいは資産があってもそれを適切に管理できない精神状態にあることが多く、たとえ裁判で勝訴して慰謝料の支払いを命じられたとしても、実際にその金額を回収できる見込みは極めて低いのが実情です。つまり、原告側は「持ち出し」覚悟で戦わなければならないのです。さらに、裁判で勝訴し、ゴミの撤去を命じる判決を得たとしても、相手がそれに応じない場合は「強制執行(代替執行)」という手続きに進むことになりますが、この執行費用も原則として原告(申立人)が予納しなければなりません。ゴミ屋敷の清掃費用は、トラックの台数や作業員の数、さらには特殊清掃が必要なレベルであれば、それだけで数百万円に達することがあります。もちろん、この費用は後に被告に請求することができますが、前述の通り回収不能である場合が多く、結果として被害を受けた住民たちが自分たちの身銭を切って、隣人のゴミを片付けるという、極めて理不尽な状況に陥るリスクがあるのです。また、訴訟にかかる時間は短くても半年、長ければ数年に及びます。その間、被告である住人との関係はさらに悪化し、嫌がらせやトラブルが増大する可能性も否定できません。このような経済的、精神的なリスクを考慮すると、多くの住民は訴訟を断念し、行政による「行政代執行」を待つという選択肢を選びがちです。行政代執行であれば、費用は自治体が立て替えてくれますが、そこに至るまでのハードルは裁判以上に高く、数年以上の放置を余儀なくされることもあります。訴えるという決断は、単なる怒りの発露ではなく、これらの経済的損失を受け入れてでも、今の地獄のような環境を脱したいという、切実な自己防衛の最終手段なのです。法的手段を検討する際には、まず弁護士との無料相談などを通じて、得られるメリットと失うコストを冷徹に比較検討し、近隣住民で費用を分担するなどの戦略を練ることが不可欠となります。