ゴミ屋敷の退去において、最も高額な費用が発生するのは「特殊清掃」が不可欠となったケースです。ある事例では、十年間一度も掃除をせず、ゴミを積み上げ続けた結果、退去費用が三百万を超えたケースがありました。この現場では、単にゴミを撤去するだけでは済まない深刻な事態が進行していました。まず、床には大量の空き缶と生ゴミが腐敗し、そこから発生した液体(腐敗液)がクッションフロアを透過して、下の合板まで腐らせていました。この場合、表面の床材を張り替えるだけでは、染み込んだ菌や臭いを断つことができないため、下地となる木材の解体と新設が必要となり、工事費は跳ね上がります。また、壁紙についても、単なる汚れではなく、ゴミから発生した湿気とカビが石膏ボードの内部にまで浸透していました。こうなると、石膏ボードそのものを交換し、断熱材のチェックまで行わなければならないため、一部屋の修繕費が一般的なリフォーム費用と同等になってしまいます。さらに、キッチン周りの被害も深刻でした。換気扇の油汚れが固着してモーターが故障し、配管内部まで害虫が侵入していたため、キッチンユニット全体の交換と配管の薬品洗浄が余儀なくされました。消臭についても、一般的な芳香剤では太刀打ちできず、強力なオゾン発生器を数日間稼働させ、壁の隙間や天井裏に潜む臭い分子を化学的に分解する作業が行われました。これらの作業はすべて専門的な技術と防護装備が必要な「特殊清掃」の領域であり、人件費も通常より高く設定されます。この事例の借主は、最終的に敷金没収に加えて二百八十万円の追加請求を受けることとなりました。ゴミ屋敷における修繕費用が高額になる理由は、ダメージが表面的な汚れに留まらず、建物の構造部分にまで達している点にあります。物を溜め込むという行為は、知らぬ間に賃貸物件という他人の財産を破壊し続けていることに他ならないのです。この現実は、退去時に初めて目に見える数字となって突きつけられ、多くの人を経済的な破綻へと追い込んでいくことになります。