ゴミ屋敷の退去費用を詳細に見ていくと、清掃費用の他に「消臭・消毒費」という項目が非常に高額に設定されていることに気づくはずです。これは、単に良い香りのスプレーを撒くといった作業ではなく、目に見えない「臭いの分子」と「細菌」を物理的・化学的に根絶させるための高度な技術が必要だからです。ゴミ、特に生ゴミや排泄物が長期間放置されると、そこから発生したアンモニアや硫化水素、有機酸などが、部屋のあらゆる隙間に侵入します。壁紙の裏、石膏ボードの微細な孔、コンクリートの目地、さらにはエアコンの内部やダニの温床となった絨毯の下まで、臭いの元は浸透してしまいます。これを完全に除去しない限り、新しい壁紙を貼っても、数日後には下地から不快な臭いが染み出してきます。このため、専門業者はまず「一次消臭」として強力な薬品を噴霧し、次に「物理的除去」として汚染された建材を剥ぎ取ります。その後の「二次消臭」でオゾン脱臭機を数日間フル稼働させます。オゾンは酸素原子三つからなる非常に不安定な物質で、他の物質と結びつこうとする強い酸化力を持ちます。この力が、臭い分子を破壊し、無臭の物質へと変えてくれるのです。さらに、ゴミ屋敷には食中毒を引き起こす細菌や、アレルギーの原因となるカビの胞子、そしてそれらを媒介する害虫の糞が大量に含まれています。これらを「消毒」するには、病院などで使用されるレベルの殺菌剤が必要であり、これら特殊な薬剤の原価も非常に高価です。このように、消臭と消毒には高額な機器の使用料、特殊な薬品代、そしてそれらを正しく扱うための専門技能を持った技術者の人件費がかかっています。退去費用においてこれらの項目が削れないのは、これを怠ると物件が「事故物件」のような不快な状態を維持してしまい、次の入居者を募集できなくなるという、大家側の死活問題に関わるからです。技術的な裏付けがあるからこその高額請求であり、これを安易に値切ることは、問題の根本解決を放棄することに等しいと言えます。
消臭と消毒が退去費用を跳ね上げる技術的な理由