脳梗塞によって脳の特定の部位が損傷を受けると、知能には問題がなくても、日常的な動作の組み立てが困難になる高次脳機能障害が現れることがあります。その一つが、実行機能障害です。これは、目的を持って計画を立て、順序よく作業を進める能力が失われる状態で、この障害を抱えると「ゴミを捨てる」という単純に見える作業さえ、途方もない難解なパズルに変わってしまいます。どの袋に何を入れ、いつ集積所に出すか、という一連の流れが脳内で繋がらなくなり、結果として部屋はゴミ屋敷化していきます。行政がゴミの撤去を行う代執行の際にも、ただ物を運び出すだけでなく、医療機関やケアマネジャーと緊密に連携し、清掃後の住人の生活をどう支えるかというアフターケアが重視されるようになっています。例えば、清掃と同時に住人を病院へ繋ぎ、隠れていた脳梗塞や高血圧の治療を開始する。あるいは、片付けられた後の清潔な部屋に介護ベッドを導入し、訪問リハビリの体制を整えるといった具合です。しかし、適切なリハビリテーションと環境の調整によって、この困難を克服することは可能です。まず大切なのは、作業を極限まで単純化し、視覚的な手がかりを増やすことです。例えば、ゴミ箱に「ペットボトル」「燃えるゴミ」といった大きな文字とイラストを貼り、迷いをなくします。また、一度に部屋全体を片付けようとするのではなく、「今日はテーブルの上にあるペットボトルを三本だけ捨てる」というように、具体的で達成可能な極小の目標を設定します。これを成功体験として積み重ねることで、脳の報酬系が刺激され、意欲の向上に繋がります。家族や支援者は、本人ができないことを責めるのではなく、できたことを共に喜び、手順を一つずつ確認する「伴走者」になる必要があります。チェックリストの活用や、アラーム機能を使ってゴミ出しの時間を知らせるなどの外部デバイスの活用も、脳の機能を補完する有効な手段です。高次脳機能障害によるゴミ屋敷化は、決して性格がだらしなくなったからではありません。脳というハードウェアの一部が故障したことによる不具合であり、ソフトウェアとしての「生活の知恵」を工夫することで、再び整った環境で暮らすことは十分に可能なのです。
高次脳機能障害による片付け不能を克服するリハビリ術